西日の当たる教室

果敢賞 西日の当たる教室

「ヘナのある風景」エッセイコンテストの果敢賞に選ばれたのは、みゃーらん様の「西日の当たる教室」です。
夕暮れ時、偶然教室に居合わせた派手ないでたちの金髪青年と、内気な文学少女。何気なく青年が口にした言葉が、少女の心に鮮烈な印象を残す、青春のエピソードです。

西日の当たる教室

西日が入る夕暮れの教室はいつも私のとっておきの場所だった。
その日の最後の授業が終わる夕方五時ころには、昼間の喧騒が嘘のように大学の校舎内も人の波がひいていく。また明日交わされる笑顔の準備のために、今日の分の喧騒をその夕日によってリセットするかのような。私は、夕日の沈むまでの少しの間、木々の隙間から降り注ぐ夕暮れを浴びる数分が、明日の私の元気の源でもあった。

友人に別れを言ったその足で、例外なくその日も私は西日の当たる教室へ向かった。
窓際の席に座ると朝日に変わる変身前の夕日を浴びて目をつむった。
その時、バタンと後ろのドアが閉まる音がした。
しまった、見つかった。怒られる・・・。

「す、すみません、黙って入って」

謝る私は、机に投げ出していた鞄を抱え、ああ、明日からもうこの場所は私の場所ではなくなる…その寂しさでいっぱいで、入ってきたのがどんな人なのかすら考えなった。

「おまえ、さあ…」

その声は思っていたよりもアンニュイで優しかった。
振り返るとそこには皮のジャンパーを着た青年が立っていた髪は脱色した金髪が伸びたいわゆるプリン頭で、聞いていたイヤホンを半分だけ取り、立っていた。

「えっと・・・。」学生であることに安心した私だったが、この不自然な状況に立ち去ることもできずに、何も言えずにいると、彼は思いもよらぬ言葉を言った。

「おまえの髪、夕日吸ってる・・・。すげえな」
私のヘナをした髪が、夕日を浴びているところを彼はそんな風に表現した。
やられた…私はそう思った。文学部で言葉を学ぶ私の辞書になかった言葉だった。
私の心は一瞬にしてそのプリン頭のヘビメタに持っていかれてしまった。

それから、放課後その放課後は私だけの居場所ではなくなった。
ごわごわに痛んでいたロッカーの彼の髪もヘナで染められ、つややかなヘビーメタルに変貌を遂げた。

今、西日の当たるキッチンで夕飯を作りながら、25年も前の大学生の頃の淡い思い出に浸っている。
もうすぐ主人が帰ってくる。少し薄くなってしまった髪はもうプリン頭ではないけれど。

 

※写真はイメージです。

 

エッセイの選評

(グリーンノートのコメント) 今回のご応募のなかで、青春の日にヘナがきっかけとなって大切な方と出会う-という内容のものはこの一編だけだったと思います。 このような出会いを想像していなかった私たちにはまさに夕日の輝きのようなあざやかな印象が残り、みゃーらん様が「やられた」と感じられたあの一言に、選考委員の中にも賛辞の嵐が起こりました。 私たちにも忘れられない一言になりそうです。 このような美しい思い出に彩られたエッセイをありがとうございます。

グリーンノートヘナ